header

地図の美しさについて、考えてみることにしましょう。実は地図作成の専門家の間では、スイスの地図は地貌表現が優れているとされます。確かに見た目に美しいことから間違ってはいないのですが、ここで問題にする「美しさ」はさらに多義的な言葉です。例えば、作成プロセスについて、そのように表現されることがあります。つまり作成技術が素晴らしくても、それを「美しい」と表現するわけです。もともとアートの語源はアルス(技術)ですから、それも当然のことと言えます。この「技術」に絞って考えると、美しさとは、点や線の美しさ、記号の美しさ、図の構成の美しさ等を指すものと整理できます。点や線は製図の基本ですから、上手に描くことができれば、それが美しいとされるのは頷けます。では記号についてはどうでしょうか。ややマニアックな説明になりますが、地図には鎖線が用いられています。この鎖線の線分と、空きの部分との比率について思いを馳せて下さい。多くの人は特に気にもしないでしょうが、この比率の違いが美しさを変えてしまうというわけです。鎖線は市郡界等に用いられるのですが、実際、比率を変えて見比べ、どちらを使うべきか検討されています。構成についてはどうでしょうか。地図の主題、縮尺も含め、地図には様々な記号が使われています。これらを細かく記号で表現するのですから、どの表現にどのような記号を用いるべきかを検討することになります。この有様によって、美しさが変わり得るというのです。
 もちろんこのように説明されたところで、所詮美しさなんて客観的なものではないだろうと考える人も多いでしょう。それは間違いないのですが、地図における美しさのポイントは、「読み取り易さ」をおいて他にありません。これが最大の基準であり、図が明白であるかどうかを判断するだけならば、ある程度客観的に判定することは出来るのです。